2017年02月12日

大きいつづらと小さいつづらどちらでも好きな方をどうぞ ―強い農業とは何か―

TPPがとりざたされはじめた前後から、農業改革の旗印として、「強い農業」という言葉がさけばれて久しいですが、この「強い」っていうのはいったいなんなのでしょう。また、この「強い農業」のために政府は「大きい農業」を求めている一方、日本の各地で「小さい農業」で利益を上げている方々が現れています。どちらがより強いのか、そもそもそんな問題設定でいいのか。日本人は、大きい方か小さい方かときかれたら小さい方と答えるのがベターとすりこまれていますが、舌切り雀のおじいさんは体がちいさいから小さい方のつづらを選んだだけだし、よくばり爺さんもいわれたとおりにちゃんと家まで帰ってから開けたら、大きいつづらにはそれなりの宝物が入っていたかもしれません。さて、あなただったら、どちらのつづらを選びますか?

まず、政府がいう「強い農業」について確認しましょう。てっとりばやく、農水省のページで「強い農業」について調べます。強い農業づくり交付金実施要綱というのをみると、まあ、さっぱりわからん。優秀な方々がわからないように書いているから、もう暗号文なみ。しょうがないから、時論公論 「TPP対策 強い農業は作れるか」(NHK online)をみると、TPPが導入されたらアメリカなどから農産物が入ってくるから、それに負けない農業という意味で「強い」ということなのだと、なんとなくわかります。

負けない強さ。よいひびきだ。あの曲がかかりますよね。簡単な言葉だけど、頭の中のいろんなところを刺激してイメージをふくまらせます。でも、この負けないっていうのが、「価格競争で負けない」っていう意味だとわかると、いっきにしょぼーんとなる。ようするに安いものが入ってくるから、もっと安いものを提供すればいいじゃんってことになるわけですね。

そして、その具体策が、大規模化とそれを進めるための融資。金を貸してやるから大きくやれということです。大規模化でコストを小さくして、安い農産物を作る。この一点において明快です。まあ、大規模化による低コスト化については経団連あたりがずっと前から言ってるし、元農水官僚がそのすばらしさについて何冊も本をかいていたり。外圧がかかってきて、これ幸いと、一気に加速したれというのが本当のところでしょう。農産物が安くなって食費が下がれば、労働者の賃金を下げることができ、最終的に製品コストが下がると信じています。じゃあ誰が買うんだよそれ?という疑問はわかないんですね。

ここまで国あるいは政府側のいう「強い農業」についてみてきました。それは大きくて強い農業なのでした。これに対するカウンターなのかはたまたそんな気はないのか、「小さいけど強い農業」というのがもりあがってきています。まさにそのまんまのタイトルなのが、久松達央著「小さくて強い農業をつくる」。また、「強い」とはうたってないけど、西田栄喜著「小さい農業で稼ぐコツ」もとっても人気が高いですね。このお二方をふくめて、買う側のニーズを拾い上げつつ、自分の目指す道を歩みつつ、しなやかに、そしてややニッチに経営を成立させている方々が日本中におられます。こういう方々は、一見突飛なことをしてるみたいですが、得意分野を伸ばしたり、無駄な設備投資をやめたり、少量多品目のメリットを生かしたり、正しい企業経営を実践しているというのが私の感想です。

大きい農業と小さい農業。どっちが強いか。舞の海が曙を相手に金星をあげたら拍手喝采な日本人のひとりとしては(曙が日本出身じゃないというのはここでは問題じゃないぞ)、小さい農業を応援しちゃいたいところですが。小さい農業というのは、自己完結しているから成功しても失敗しても自分の責任範囲内。いろいろチャレンジもできるし、融通もききます。はっきり言ってやりがいがありますよね。一方、耕作放棄地や雇用の受け皿として機能させるのは簡単ではありません。それに個人の能力に高度に依存していています。片や、大きい農業は、大型の機械や施設を利用してスケールメリットを生かすことでコスト減を狙うことができ、放棄地を吸収したり雇用を提供したりできます(とはいえ、大規模化に伴って零細農家をなくして、その何分の一かの人数を雇い入れるだけなんですが)。しかし、大きくなるといろいろ難しいことがあります。大きくなるためには少なからず人を雇い入れることになります。そもそも人を使うというのは、簡単なことではありません。雇う側にそれなりの訓練が必要です(雇われる側ではなく)。特に自分が人に雇われたことのない場合、従業員の心情を理解するのは難しいことです(ここんとこテストにでるよ!)。また、現在、農業にいろんな能力や経験を持った人間が流入してきています。これを小さなものさしで計ると宝のもちぐされになり、各種才能をジューサーにかけてミルクセーキみたいにして使っています。従業員の方もひかえめな人が多いから、だまってくさってやめてしまいます(それで相手がわかってくれるなんて思うのは甘い)。結局、労務やら評価やら経理やら普通の企業がやってることをちゃんとやらないと成立しません。うちは農家だから〜とかいってると早晩退場することを余儀なくされます。

大きい農業も小さい農業もメリットとデメリットがあり、比べるのは簡単じゃないと感じます。ただ、海外からの安い農産物と戦ってどちらが残るかといえば、小さい方かなと考えています。根拠としては、大きい農業の方は輸入農産物と正面衝突するのに、小さい農業の方は、もともとあまり値段にこだわらない層に依存しているからです。とはいえ、TPPがなくなった今、アメリカの輸出補助金が生きたまま二国間協定なんか結ばれた日にはどちらもただではすみますまいね。だから、大きかろうと小さかろうというべきことはちゃんと言えるようになる。それも企業責任というものです。まじでやばいから。

さて、ここまできてちゃぶ台を返すようですが、農業をやっている環境、まわりの産業や人口の構成、作目がそれぞれ違うので、大きい農業と小さい農業がどっちがいいと簡単に言えませんよね。それにすでに大規模なところが小規模になることはできませんし、その逆も簡単ではありません。大きい農業と小さい農業の間に中くらいの農業ややや小さい農業もあっていいはずです。そもそも問題提起がナンセンスでした。ここまで読んでいただいた方には申し訳ないです。結局のところ、今与えられているものを生かしていけるかどうかが問題じゃん?くらいのありきたりな総括しかできません。ただ、農業を上から守るんじゃなくて、それぞれの農業法人や農家が大きいなり小さいなりにそれぞれに努力することで結果として農業が守られるというのが本当かなと思います。もちろん、何らかの交通整理は必要だから、みんなで寄り集まって(国境を越えてもいい)、ひとつふたつ上のレベルでものを考え提案していく。だいたいなんで海外の農業と戦わなきゃいけないんですか?そんなセッティング必要なんですか?そこまで考えてより大きな意味での「強い」農業をめざしていけたらいいと思うんですが、どうですかね?それこそ地球レベルで。
posted by ばんばスタッフ at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 農業一般
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